丈六の仏と目の合ふ冬麗 薔薇色の影絵となりて冬茜 七五三春日大社と自慢して
インド洋に沈む夕陽や月淡し 石蕗咲いて空一段と蒼くなり かけ足で通りすぎゆく秋惜しむ キャンパスのポプラ並木や羊雲
◎嵐去り朝の静けさ小鳥来る 晴天の先へ先へと芒の穂 働き方改革と言へ夜業の灯 蓑虫の風に漂ふ定めかな
気まぐれに泊まりし宿の星月夜 今夜からまたひとりなり門火焚く 警策に強弱ありて堂涼し ただ見てゐるだけの門徒や草の市 昨夜の雨の雫を宿し白木槿
折りたたむ日傘のぬくみ膝にあり 少し揺る二の腕白し夏夕べ 金亀虫緑色して死んでをり
目覚むれば有明の月ほととぎす 日を浴びて一直線に翡翠飛ぶ 的しぼり翡翠一瞬の漁成功
熊蜂に食らひつかれて揺るる花 目まとひの目に飛び込みし雨意の風 末っ子のまま老いにけり桐の花
石室の青天井や風光る しとど雨に濡るる牡丹の俯けり 天に通ず一本道や蝦夷の春 物音のひとつもなくてのどかなり
ただ虻の羽音気怠き昼下がり 生飯投げやアンダースローの修二会僧 石室の青天井や風光る 若鮎の一途に川を遡る 紫雲英田は郷愁さそふものとなり
売物件屋敷の古木梅ふふむ 下萌の土の湿りや昨夜の雨 つやつやと葉のたくましき君子蘭
筆跡の一目なつかし年賀状 近づきても知らぬふりして寒鴉 福寿草仲良きことは美しき
底見せて細くうねるや冬の川 枯尾花ちぢれて風のなせるまま 割烹着の良さつくづくと師走かな アルミ箔に包まれ焼藷転がれり
海鼠壁掘割銀杏落葉かな 赤赤と鳥居のつづく神の留守 天も地もすきとほりたり冬茜 綿虫のつかずはなれずつきまとふ 炉開のけふはきものを初初し
◎押し並べて斜交ひに咲く油点草 このところ空き地黄となり泡立草 青空の紅き林檎を捥ぎ取りし 体操服中学生の案山子かな 古寺の土塀崩れし破芭蕉
没年は大空襲の日墓洗ふ
虎尾草の花舞ひ上がる風のあり 端居して極楽よりの余り風 枝先の風に撓へる合歓の花 四阿を額に紫陽花色弾む 夕顔の蔓すさまじき命かな
八の字に茅の輪くぐれば空青し 息づかひのやうに明滅蛍の夜 鳴き果てて真夜の静けさ時鳥 黒南風や釣人の背のみなまるし
◎蓮華坐に夕日目映き練供養 新緑を突き抜けケーブル山頂へ 葉桜や若人の顔漲りて カスタネットの如歯切れ良し初蛙 芍薬の蕾のままに揺れてをり 父と二人桃一本の袋掛け
妖しくてなぜか寂しき夕桜 大往生葬列行けり花吹雪 上千本吹き上がりくる花吹雪
縦笛や古希の手習い春の風 梅見して梅が一番好きと思ふ やはらかき夕日蓬けしねこやなぎ 白子干つかみ量りに足すおまけ 枝先にこぼるる光枝垂れ梅
きびしさのあとのやさしさ四温の日 沈黙や絵踏なき世の神畏る 夕暮れの紅梅あたりぽっとして もしかして初音を聞けり今日は吉
氷河湖のコバルトブルー冴え冴えて 蝋梅や近付き見上ぐ空の青 寒禽や声こだまして原生林
ローカル線の車掌の訛冬ぬくし 冬ざれのフェアウェイに日矢の射す 山襞のまぢかに見えて冬ぬくし 四万十やのぼりきらざる冬の霧 枯欅花の咲く如鳥遊ぶ
朝露を宿し煌めく花蕊かな 二上の鞍より日出づ冬立つ日
ちんまりと艶やかなりし秋茄子 ビル群を包み込みたる秋の虹 山の端に入り日につづく稲筵
まだ堅き薄を壺に抛げ入れて 艶めかし茹で落花生の殻を剥く 過疎の村に越して来し画家秋薊 白珠の卵曝して大蛾果つ
初蝉や木立の中の無言館 青春を再び歩くお花畑
がにまたのまま動かざり蟇 あぢさゐの重さゆらりと壺に活く